土砂降りのプールと化したテントで起床
大慌てで雲を見ながら栃木側に下山
雨に終われて西に進路を取り、もう茨城に戻れない事を理解して三依へ
分岐点で南北どちらに向かうか考える
どーせここまで来たなら福島入りしよう
やり残した事あるし
旧作のジャパンフォレストを読んでいた人なら知ってると思うけど
日本最高峰のクワガタ屋を自称していた私が蛾屋になったきっかけをくれた人
クワガタを止めたきっかけは小川直紀なんだけれども
次に何をやるかで、蛾を始めるきっかけとなった人
勿論その過程でトチコンの連中は大きく作用しているけれども
一番始めに私に蛾の手ほどきをした蛾屋がいる
出会ったその場所へ行けばひょっとしたらまた会えるかもしれない
そんな訳で福島へ
可能性は限りなく低く
手がかりはわずか
仕事で指を失った事
出会った場所
その当時蛾屋が宿泊していたキャンプ場
他の蛾屋と知り合うたびに消息を訪ねるが誰も知らないという
キャンプ場に宿帳があればたどり着く手がかりになるかもしれない
もう一度お会いして今私も蛾屋になっていること
日本一を目指していること
この楽しい世界を最初に見せてくれたことにお礼を言いたい
茨城での採集に大活躍してるとはいえ、所詮はスーパーカブ
奥日光へ気軽に採集へいく中山氏に対抗するため、エンジンを改造してハイパーカブにはしたものの
さすがに福島までは遠い
老体に鞭打って必死の激走で木賊温泉へ
露天に入っていると若いお姉さんが入ってきて
気まずくて出れなくなる
頼むから混浴は熟女限定にしてほしい
温泉で疲れを癒やして目的地のシルクバレーキャンプ場へ
管理人さんに蛾屋さんの消息を訪ねる
管理人さんから知っているだけの情報をもらう
あれから7年近い月日が流れて
蛾屋さんにたどり着くためのヒントになる情報をもらう
今回は会えなかったけど、後ちょっとだ
残り時間が少ないから急がないと二度と会えなくなる
真っ青な空を見上げてもう少しでたどり着ける事に喜びを感じる
やがて夜
目当ての蛾屋がいれば今夜も他人灯火のつもりだったけど
何年もの時を超えてまた同じキャンプ場に蛾の採集に来てるはずもなく
今夜は街灯を見て歩く事にする
昔福島に通ってた頃よりクワガタ屋は少なく
クワガタ自体も少ない
あれだけの採集圧が掛かれば当然か
採集で絶滅した虫はいないと虫屋は言うけれど
誰か確認したのだろうか
普段データデータと口うるさい虫屋たち
データもなしに絶滅していないと本気で語ってるのだろうか
盾と矛の世界にいつまで住むつもりなんだろう
くるくると街灯を回っても誰にも出会わない
福島の夜を満喫
クワガタ屋さんたちは橋や自動販売機で立ち止まる
誰も僕のところに来ない
どこを見てるんだろう?
僕も昔あの中の1人だった事が恥ずかしく思える
本物の採集者になりたくて
有象無象の贋者たちと離れて
多分僕は今本物になったと思う
昔の僕と今の僕で何が違うのか
ただ単に文献やネットに溢れる情報から身を離し
自分自身の経験で考えるだけの違いだったのかも
あとは
センスとかいろいろあるけれど
本当の事を伝える勇気が足りなかったのかも
図鑑や論文なんてこの世界の一部を切り出したただの紙片で
世界のほんのわずかな部分しか切り取っていない
それだけのこと
たどり着いた街灯の下でテントを張り
イスを出してゆっくりと時間が流れるのを待つ
街灯の下にイスを出して街灯を独り占めするのはマナー違反だと
トチコンはそう言うのだけれど
ほら
誰も来ないじゃないか
誰もこの街灯にたどり着けないじゃないか
僕は今夜も独り占めだ
誰に迷惑をかけているのだと言うのだろう
僕は僕だけの世界を持っている
誰もたどり着けやしないよ